卵焼きは甘いのが好きだ。
卵焼きは砂糖をいれた甘いものだと思っていたが、福井出身の知人に出したところ、「卵焼きはしょっぱいのが普通。」と言われてしまった。卵焼きが甘いか、しょっぱいかで地域的にアンケートを取ってみれば、甘い卵焼き分布図ができあがって、面白いかもしれない。
味は人生の懐かしい思い出と一緒になったものかもしれない。
子供のころの誕生会で、母に作ってもらったチラシずしや苺のショートケーキ。とれたてのサバを寿司にして笹の葉でくるんだ笹寿司。
子供のころ、サウンド・オブ・ミュージックなどのミュージカル映画を家族で見た後食べたヒレカツ定食、このヒレカツ定食を食べた店は油が壁やテーブルにしみ込んでいた汚い店だったが、抜群にヒレカツが美味しく、今もあれを超えるヒレカツを味わったことがない。
もう、なくなってしまったが、神戸・元町にあった「青辰」の穴子寿司も懐かしい。パリパリののりの香りに、よく煮含めたシイタケの香りがマッチして、至福の味だった。
あなたの思い出の味はなんですか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
10 「深夜食堂」(空腹のセレナーデ)安倍夜郎 (小学館)286円
「深夜食堂」というコミックを手に取ったのはコンビニだった。
前からこの題名が気になっていて、偶然手にしたのはダイジェスト版の「深夜食堂」だった。パラパラと読んですっかり気に入ってしまった。
東京の路地裏にあるマスター一人で、深夜0時から朝の7時まで営業する「めしや」の物語で、メニューは豚汁定食、ビール、酒、焼酎しかないが、マスターが作れるものなら何でも作ってくれる。
マスターも常連客も訳ありみたいだが、つかず離れずの、人と人との距離感が心地よく、あたたかい。
難破船が灯台の灯りを頼りにやってくるように、お客たちは、この深夜食堂に吸い寄せられるようにやってくる。いい人も、悪い人も。そんないろいろなお客に対して、マスターの出す料理は簡単だが、堪らなく懐かしくて、「そうそう、こういうものが食べたかったンだよねぇ」と頷いてしまうのである。
個人的に、春キャベツの千切りに中濃ソースをかけたものにはまっていて、キャベツ好きの人にはおすすめの一品である。
こんな店があれば、通ってしまいそうだが、朝方人間の私には、深夜はきつく、コミックの世界を楽しむほうがよさそうだ。
食べ物の題名のエピソードのどれもが、しっとりと優しく、人に対する愛しさに満ちている。読んでいると作品にでてくる料理を再現したくなって、「深夜食堂の料理帖」(飯島奈美 小学館 907円)も買い込んで、研究しているところだ。
うまく再現できたら、「深夜食堂」パーティをして友だちや家族を喜ばせよう、と計画している。
映画「深夜食堂」(監督 松岡錠司 主演 小林薫 現在2月14日ブルク7で上映中)も素晴らしく、寒い夜には人肌に温まる作品になっている。
主演の小林薫の飄々とした魅力に加え、高岡早紀の色っぽさ、田中裕子の他を圧倒するおとぼけ怪演ぶりも笑わせてくれる。